これまで、日本の大学生の就職活動と言えば、新卒者を対象として、春から夏にかけて実施する「一括採用」がほとんどでした。しかし、期間を決めず年間を通して採用を行う「通年採用」を導入する企業も、最近は増えてきています。
これから就職活動をする学生の方は、通年採用も視野に入れることで、就活の選択肢を拡げることができます。
そこで、今回は通年採用について詳しく解説していきます。この機会に、通年採用のメリットやデメリットについて、しっかりと理解しておきましょう。
通年採用って何?
すでに就職活動をスタートしている人であれば、「新卒の採用は3月から説明会が始まり6月から選考が始まるものなのでは?」と覚えている人もいるかもしれません。
たしかに、多くの日本企業がそのようなスケジュールで新卒の採用をおこなっています。
それでは、「通年採用」と「一括採用」の違いは何でしょうか?
このふたつの一番大きな違いは、採用期間の長さにあります。
「一括採用」では短期間の採用活動をおこないますが、「通年採用」では、期間を決めず年間を通して採用活動をおこないます。
多くの就活生が同じようなタイミングで就活を始めるのは、多くの日本の企業が、一括採用で新卒採用をおこなう慣習があったためです。しかし、海外の企業では、通年採用が主流となっています。海外の企業が通年採用をする主な理由は、実力主義の傾向が強く、即戦力が求められていることや、日本のような終身雇用ではなく転職を繰り返してキャリアアップを図ることがスタンダードであることが挙げられるでしょう。
しかし、近年では、日本でも通年採用に関心を抱く企業が増えつつあります。
あるデータによると20卒の学生を採用した企業のうちで、通年採用を導入している企業は17.5%にのぼりました。また、21卒の学生に対して通年採用の実施を検討している企業は25.1%まで増加してる傾向があります。
通年採用をおこなう企業の目的
日本企業はこれまで一括採用を慣習としてきたのに、なぜ最近になって通年採用を導入し始めたのでしょうか。また、どういった目的でおこなっているのでしょうか。
・優秀な学生を採用するため
現在の日本企業の課題の一つは、少子高齢化による労働人口の減少が問題になっているなかで、いかに優秀な人材の確保をするかと言うことです。一括採用では、採用期間が決まっているため、出会える学生の数が限定されてしまい、優秀な人材の確保が難しいなど、採用活動が苦戦してしまう傾向があります。
しかし、通年採用であれば、時間をかけて採用活動をおこなうことができるため、一括採用よりもより多くの学生が募集できます。そのため、企業がもとめる優秀な人材を採用しやすくなるのです。
・海外大学の卒業生を採用するため
また、海外の大学を卒業した優秀な学生を採用するために、通年採用をおこなう企業もあります。
海外の大学では、入学時期が9月頃で、卒業時期は7月〜8月の夏であることがほとんどです。そのため、日本の大学と比べて約5ヶ月のズレが生じてしまいます。日本企業の一括採用のシステムは、日本の大学に通う学生が就活をしやすいスケジュールが組まれているため、海外の大学を卒業したあとは、日本で就職したいと考えている学生を採用することが難しくなります。より能力の高い人材を確保するためには、積極的に海外大卒者も採用できる通年採用を導入しようという狙いがあります。
・海外留学生や既卒者の採用をおこなうため
企業が採用したいのは優秀な若手人材であり、それは新卒の学生だけに限りません。海外からの留学生や、既卒者などの優秀な人材も採用したいと考えています。
しかし、一括採用は新卒の学生がメインのため、海外留学生や既卒者との出会いは限られたものになってしまいます。そこで、通年採用をおこなうことで、より多様な人材を獲得できるようにしているのです。
このような目的があり、通年採用を導入する企業が増えつつあります。
通年採用のメリットは?
一見すると、通年採用は企業側にばかりメリットが大きいように思えるかもしれませんが、学生にもメリットがあります。
・就活の準備が十分にできる
一括採用の場合は、全国の学生が同じ時期に一斉に就活を始めるため、準備ができていなくても、とりあえず就活を始めるという人も少なからずいると思います。
しかし、通年採用の場合は、自分が選んだタイミングで就活を始めることができます。
そのため、まわりと足並みを揃えるために就活を始める必要はなく、自己分析やエントリーシートの作成や面接対策など、事前準備にしっかりと時間をかけたうえで、就活に挑むことができます。一つひとつの企業に対して十分に時間をとることができるため、より納得感・満足感の高い就職活動を行えるようになります。
・ゆとりのあるスケジュールで就活ができる
一括採用の場合は、多くの企業が同じ時期に選考を始めるため、受ける企業が多いほど、ハードスケジュールな就職活動になってしまいます。
その一方で、通年採用では採用時期が限定されていないため、比較的ゆとりのあるスケジュールで就活ができます。他社の選考状況も見ながらスケジュールを立てられますし、エントリーシートや面接の質を上げるため時間を使うこともできるため、心の余裕も持てるでしょう。
・より納得のいく企業の内定を狙える
新卒一括採用で、春から夏にかけての時点で内定を獲得できた学生の中には、その内定先が本当に自分に合っているか、もっと能力を発揮できる会社があるのではないか、という疑問や不安の残っている学生もいます。そのような場合は、秋冬での就活で、より自分の納得のいく企業の内定を獲得する機会を得ることができます。
通年採用のデメリットは?
通年採用には、学生が就活をする上でのメリットがある一方で、デメリットも存在します。
・選考基準が高くなることが多い
一括採用の場合、期間中に必要な人数を採用してたいという企業側の事情があり、選考基準に多少足りない部分があったとしても、見逃されて内定をもらえることもあります。
しかし、通年採用の場合は、年間を通して採用をおこなうため、選考基準を下げる必要がなくなり、より丁寧に審査される可能性があります。
そのため、通年採用では、企業の選考基準が高くなる可能性を想定して、エントリーシートや面接の対策をより綿密に行う必要があります。
・自分から積極的に活動する必要がある
一括採用の場合、就活情報アプリやサイト、就活エージェントなどを調べれば、就活の大まかなスケジュールを知ることができます。そのため、流れに乗って進めれば就活を進めることができるでしょう。
その一方で、通年採用の場合は、自分のタイミングで就活を始めることができるメリットがある一方で、企業側も独自のスケジュールで採用活動を行うということでもあります。そのため、就活アプリや就活エージェントのサイトを見るだけでなく、自分が積極的に動き、各企業の採用スケジュール等を調べる必要があります。
また、面接などの選考も同時期におこなわれないケースもあるため、エントリーシートの締め切りや面接日程を混同しないよう、しっかりと自分自身でスケジュール管理をする必要があります。
通年採用を実している企業
実際に通年採用を実施している企業をいくつか紹介します。
・ヤフー
ヤフーでは、2016年10月から新卒一括採用を廃止し、新卒、既卒、第二新卒など経歴にかかわらず30歳以下であれば応募できる、「ポテンシャル採用」という通年採用をおこなっています。
・楽天
楽天の新卒採用は、ビジネス職とエンジニア職の2種類があり、通年採用の対象はエンジニア職です。エンジニア職では、個人の専門知識や経験、実力に合わせて給与が決まり、入社時期も相談が可能となっています。ただし、職務要件では職務経験や高い専門性が必要とされています。
・ソフトバンク
ソフトバンクでは、挑戦する意欲ある人に門戸を広く開き、主体性のある就職活動ができるように「ユニバーサル採用」をおこなっています。このユニバーサル採用の選考は複数あるため、自分の能力を発揮できる選考方法を選ぶことができます。
・ファーストリテイリング
ファーストリテイリングの傘下であるユニクロでは、ユニークな通年採用がおこなわれています。採用期間が年間を通して採他社と同様ですが、大学1、2年生でも選考を受けることができ、内定が取得できたら大学卒業後に入社することができたり、例え不合格になっても年度が変われば選考に再応募できるという、ユニクロ独自のプログラムになっています。
通年採用の注意点
ここまで通年採用について解説しましたが、通年採用企業だけに絞って就職活動をすることにはリスクがあることも知っておく必要があります。
通年採用は、一括採用のように「みんなが就活を始めたから、自分も始めなければと焦りを感じる」というようなプレッシャーがない分だけ、主体性を持って積極的に行動しなければ、就活は進んでいきません。そのため、他の学生と一緒の時期に就活を始めたくない、などの考えで通年採用企業に絞ってしまうと、内定が一つも取れずに後悔する可能性があります。
絶対に通年採用企業しか受けたくないという人でなければ、通年採用企業と一括採用企業を両方受けておくことを、おすすめします。
まとめ
今回は通年採用について詳しく解説しましたが、時間のゆとりをもって就活ができる通年採用企業に大きな魅力を感じた人も多いのではないでしょうか。
しかし、通年採用企業は、主体的な行動が必須であることや、実力重視で選考基準が高いことなど、一括採用企業よりも内定を取ることが難しい可能性があります。
そのため、通年採用企業が第一希望の場合でも、まず一括採用で就活をしておけば、エントリーシートや面接などの練習をすることができます。また、一括採用でも内定を獲得できていれば、通年採用企業の選考にも安心して臨むことができるでしょう。
一括採用企業と通年採用企業のメリット・デメリットを考えながら、自分にマッチした企業を今のうちから模索していきましょう。